朝美絢が演じた春児のまっすぐな瞳に号泣でした(『蒼穹の昴』観劇)

先日雪組東京宝塚劇場公演『蒼穹の昴』を観劇してきました。

評判の良さにものすごく期待していましたが、一言で言って期待どおりでした。
この『蒼穹の昴』は間違いなく彩風咲奈の、雪組の代表作になると思います。

まず有村淳先生の史実に基づいた豪華な衣装、そして松井るみさんの素晴らしい舞台セットに目を見張りました。

浅田次郎氏の原作は観劇日の少し前に読み終えました。
この長い壮大な原作を2時間半にどんな風にまとめるのかと思っていました。

それぞれの登場人物について深くは描き切れていない部分もありました。しかし、おそらく原作を読んでいない人にもわかりやすく、すごくうまくまとめられていたと思います。
原作を読んで感動した場面がこんな風になるのか~と感激した場面も多数ありました。

そして主役の梁文秀の咲ちゃん(彩風咲奈)をはじめ全てのキャストが魅力的に描かれていました。
原田諒先生の力量がすごいです。

李春児は朝美絢の当たり役

その登場人物の中でもとくにあーさ(朝美絢)の李春児があまりにぴったりでした。

原作を読み始める前に初日の映像などを見ていたので、そのあーさの春児を思い浮かべながら読んでいましたが、全く違和感ありませんでした。

少年時代のキラキラの笑顔

お話冒頭では11歳の少年の春児。

あーさの少年らしいまっすぐな瞳や可愛らしい仕草などが素晴らしくて、あーさから目が放せませんでした。
妹の玲玲(朝月希和)と手をつないで銀橋を渡る場面の可愛らしいこと!

原作で占い師の白太太(京三紗)が春児のことを「あやつはかわゆい。そのかわゆさが必ず星をも動かす」と話す場面がありましたが、その言葉がぴったりなまっすぐでかわゆい春児でした。

京劇シーンの素晴らしさ

この作品を舞台化するにあたって原作者の浅田次郎先生から京劇のシーンは必ず入れてほしいという要望があったそうで、京劇は欠かせない場面となっています。
その京劇はあーさの一番の見どころです。

まずは富貴寺で師匠の黒牡丹(眞ノ宮るい)に特訓を受けるところ。

銀橋を渡りながら棒を振って黒牡丹のはいちゃん(眞ノ宮るい)と型を合わせるところからすごい迫力です。
あの狭い銀橋で棒を振るのは怖かったと思います。

もう一場面、紫禁城の中で春児と黒牡丹が挑滑車を演じる場面の豪華絢爛で重そうな衣装をつけての立ち回りは本当にすごい迫力でした!

あーさははいちゃんと二人で毎日お稽古の前にも後にも必ずこの京劇のお稽古をしていたそうです。

そのかいあって、パンフレットで京劇指導の張春祥さんが言っておられたように本物の京劇俳優のような勇壮かつ優美なシーンに仕上がったんですね。

あーさとはいちゃん、とくにくるくる回りながらキレッキレの動きを見せたあーさの身体能力の高さに目を見張りました。

宦官となってからの慈愛に満ちたお芝居

西太后の前で挑滑車を演じたことで西太后の目にとまり、西太后付きの太監(宦官)になるように命じられた春児。

原作では見習いの太監になってから西太后の側近として仕えるようになるまでも数々のエピソードがありますが、この作品ではそこはほとんど省かれています。
なので、挑滑車の場面の後は常に西太后のそばに控えています。

元々は西太后のお宝を手に入れて大金持ちになるという占いを信じて西太后のそばに登るべく努力をしてきた春児ですが、西太后の人柄に触れてどんどん西太后様を守りたいという風になっていきます。

なので、西太后と二人でいる時や、栄禄(悠真倫)たちと話している西太后を見つめる目が非常に慈愛に満ちた目をしているんです。

その頃には高級太監らしく優雅で品のある話し方、身のこなし方で、少年の時の春児とまったく違っていました。
舞台上では描かれていない時の流れと春児の成長が感じられる素晴らしい演技でした。

彩風咲奈の文秀との場面

この作品はトップコンビの恋愛部分はほとんど描かれていません。

原作ではひらめちゃん(朝月希和)演じる玲玲は咲ちゃん(彩風咲奈)演じる文秀にほのかな恋心を抱いていて、文秀の奥さんに嫉妬したりします。
最後の方には文秀と玲玲が一夜を共にする場面もあります。

でも宝塚版ではそういった場面はなくて文秀が妻を迎えることもないし、玲玲とは恋愛というより家族愛のような関係です。
お互いに守りたい相手といった感じ。

それだけに二人の関係より咲ちゃんの文秀とあーさの春児との絆の方が物語の主軸になっています。

なので、この二人の場面がより重要な場面だなと思いました。

最初に白太太から告げられた予言を胸に夢を語り合う場面、
北京で喧嘩別れしてしまう場面、
そして紫禁城で官吏と宦官として再会する場面、
最後に命を捨てる覚悟をした文秀に春児が死んじゃだめだと言いに来る場面

どれも感動的で素敵な場面でした。

とくに一幕の最後の方で、紫禁城で春児が京劇役者として見事に演じてみせた後に文秀と再会する場面。

喧嘩別れしてから3年の月日が経っていたと思いますが、一瞬で幼い頃に戻ってお互いを思い合う二人を見て涙が出ました。
客席の周りからもすすり泣きの声が聞こえていました。

それと、二幕の最後の方で日本公使館にかくまわれている文秀を春児が訪ねてくる場面。

后党派に投降して命を捨てる覚悟をしている文秀に「文秀は何も悪い事をしていないんだから行っちゃだめだ。死んじゃだめだ」と言う春児のあまりにもまっすぐな眼差しに、この場面も号泣でした。

この場面から譚嗣同(諏訪さき)の処刑場面まで涙涙でオペラグラスが曇って大変でした。

そして一番最後に日本へ亡命する文秀と玲玲を見送るために紅い壁に囲まれた道を走ってきて二人への思いを歌うあーさの歌にまた号泣。

その後の天津の埠頭で日本船に乗った二人を見送る場面で、咲ちゃん、ひらめちゃん、あーさの3人で歌う場面。
オペラグラスで3人を交互に見ながらも、あーさの輝く笑顔を見てまたさらに号泣でした。

原作では子供の頃に最後に玲玲が春児に渡した乾隆銭をこの時に日本の将校を通じて返すという意味深いシーンがあるんですが、それは残念ながらカットでした。
このエピソードを入れる時間はないので仕方ないですね。

でも3人の歌う「宿命の星」を最後に幕が下りて、最高潮の感動のままお芝居本編が終わりました。

フィナーレ

一本もののフィナーレの最初のいわゆる”歌唱指導は”2番手男役がやることが多いですが、今回はあーさはお芝居の最後まで舞台上に出ているので、3番手男役のそらくん(和希そら)が担当しました。

お芝居中では決して笑わなかった順桂役のそらくんが花道でせり上がってきて振りむいた時の笑顔が素敵でした。

その後のロケットの次の男役群舞で出てきたあーさの色っぽいこと!

お芝居ではずっと黒い弁髪風の髪型でしたが、フィナーレでは金髪混じりの髪色で、それもまたお芝居とのギャップがあってやられました。

群舞の途中で笑顔を振りまきながら一人先に袖に引っ込んだあーさが、娘役たちの踊りの時に一人でセンターに出てきて、娘役さんたちを引き連れて踊ります。
娘役さんたちと同じ白地に青い景徳鎮柄の衣装がとっても素敵でした。

ここでは満面の笑顔で娘役さんと絡みながら踊るのですが、片足をピョンと後ろに跳ね上げる可愛い振りがあったり、退団者の娘役たちと絡む場面があったりと、あーさの素敵なダンスが堪能できます。

そしてパレードでは、今回作品の世界観を保つためにトップコンビとあーさは大羽根は無くて豪華な中国衣装で登場でした。

咲ちゃんがゴールド、ひらめちゃんがピンク、あーさが水色を基調としたマントがついた超豪華な衣装で、素晴らしく似合ってました。

お芝居も見終わった感動で放心状態になっているところにまた華やかなフィナーレとパレードで、夢心地になって3時間の観劇時間が終わったという感じでした。

あーさ(朝美絢)の春児以外にもどの登場人物もぴったりで魅力的で、もっとそれぞれに注目して観たいほど目が足りない作品でした。
もちろん咲ちゃん(彩風咲奈)の文秀の熱いお芝居にも、ひらめちゃん(朝月希和)の健気な玲玲にも何度も涙腺がゆるみました。
本当に何度でも観たい素晴らしい作品でした。

できることなら次はあーさの春児を主役にした物語が観たいなと思いました。

宝塚版に描かれなかった春児のエピソードがたくさんあるので、それを舞台で観たくなったんです。
これほどの大作をまた作るのは難しいとは思いますが、もし機会があるなら原田先生にぜひお願いしたいです。

  

読んで頂き、ありがとうございました。

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