何も無かったことにはできないけれど…(宙組全国ツアー広島公演観劇)

宙組の全国ツアー公演、今日が福岡公演の千秋楽ですね。
この後宮崎公演、鹿児島公演と続きますが、今日がこの公演のライブ中継とライブ配信の日でした。
実は私、わけあって急遽、27日の広島で行われた宙組公演に行ってきました。

東京から新幹線で4時間、お昼前にうちを出て広島に到着。お友達と合流してお茶をして、広島駅前からタクシーで15分くらいでしょうか、会場に到着しました。
会場の近くに平和記念館、その向こうに平和記念公園が見えました。

宙組全国ツアー公演 『大海賊』『Heat on Beat! -Evolution-』観劇

ほんとうに「わけあって」急遽の広島、急遽の観劇でした。

『大海賊』は北翔海莉さんの星組福岡公演として観ていました。広島まで行ってもう一度観たいかと言われれば、「うーん」という演目です。
そして『Heat on Beat!』は瀬奈じゅんさんの退団公演です。広島まで行かなくてもイントロの最初の一音からいきなりどっぷりその世界にひたることができます。そもそも他の誰かで観たいという欲求もない作品です。

それでも行ってよかったと思いました。

受け継がれる宙組のコーラス

宙組のコーラスは健在です。

人数が多いか少ないかで魅力は変わりません。どんな組み合わせでも驚くほどの声量と美しさで魅了してくれます。
もちろん大劇場でも感じることではありますが、バウと二手に分かれた全国ツアー公演でも圧巻のコーラスでした。これはすごいことなんじゃないでしょうか。

私が宝塚の「組」をどこまで理解できているのかわかりませんが、宙組のコーラスは過去の作品からずっと変わらず受け継がれていることはわかります。

ただ美点が継承されるということは、「組」は美点だけでなく欠点も受け継ぐものなのかもしれません。
この公演の時間中にどうしてもそういったことを考えてしまう瞬間がありました。

それでもどうか、このコーラスをずっと受け継いでいって欲しいです。

熱い熱い宙組生

この季節、宙組についてはいろんなことを考えずにはいられません。

あの出来事の後、宙組の公演などの中止が発表されたのは昨年の10月20日でした。
観劇の前にもふとした瞬間、「昨年の今頃は…」と考えてしまいました。この季節の空気がそうさせるのかもしれません。

また、この一年を過ごした宙組生たちもまたこの季節に同じような気持ちなのかもしれないと思いました。

一人ずつの舞台への思いが少しずつ強く、結果的に宙組の公演は思いが溢れる公演になっていたように感じました。

他の組が手抜きをしているとか、そういうことではありません。
先日観劇した東京宝塚劇場の雪組も素晴らしかったです。
しかしそれとはまた違う熱を感じました。

こちらの気の持ちようかもしれないと思い直しても、気づくとまた「宙組、熱い」と感じてしまっているような熱量がありました。

芹香斗亜

キキちゃん(芹香斗亜)は溢れる思いをコントロールしようとしているようにすら感じました。

爆発しそうな思いを懸命にコントロールしてストーリーを進め、ショーの中心で歌い踊っているようでした。

この芹香斗亜というスターがトップとして熟成していく姿を見られないのはとても残念です。
キキちゃん自身は残念という言葉では表せないほど苦しんでいるはずです。
そう言った姿を見せられないこと、あるいはその極みに到達できないことに苦しんでいるだろうと思いました。
そういった思いを自分自身に組子に、そして観客にぶつけているような姿でした。
そしてそれを宙組のメンバーはしっかりと受け止めているようです。

一人ずつの強さ、キレ、シンクロさせるという気力が様々な場面の群舞のすべての組子から溢れていました。

同時に…
エミリオが小船に乗せたエレーヌの亡骸を海に押し出すシーンはゾッとする美しさでした。
エミリオの悲しさがキキちゃんに重なっているように感じました。

『Heat on Beat! 』は私が大好きな瀬奈じゅんさんの退団公演のショーです。
もう何度映像を繰り返し観たかわかりません。
『Heat on Beat! 』は月組で霧矢大夢さん、龍真咲さんも演られました。
しかしそれらを観て思ったことは、あのときの月組のための、そして瀬奈じゅんさんのための作品だったということでした。

それでも今回、そのオープニング、キキちゃんの歌い出しにゾクっとさせられました。

また歌のないタンゴの場面、キキちゃんがステージの上だけでなく客席をも有無を言わせず率いて踊っている。
今思うと音楽のない静寂が覆い尽くした劇場の中心で男役・芹香斗亜が踊っていたかのような気がします。

春乃さくら

今回の舞台ではさーちゃん(春乃さくら)も圧巻でした。
彼女もまたこの一年に対する思いを、演技の一つずつに込めているようでした。

歌も踊りも頭抜けていましたが、「強さ」を表現する演技は見事でした。

船上でエレーヌがエミリオに出会う場面、意志の強さを示す演技と台詞、そして僅かな時間の経過の中でエミリオに惹かれていくエレーヌの場面は多少強引な展開です。
しかしさーちゃんの演じるエレーヌの表現が押し切ってしまった感がありました。そしてそれがキキちゃんのその後の演技やお芝居の流れを自然に引き出していると思いました。
さーちゃんはキキちゃんよりずっと下級生なのに、互いが互いを引き立て合うような関係を見せてくれました。

この舞台を見て、もっと彼女の(できればこのコンビの)成長を見たいと思いました。

桜木みなと

ずんちゃん(桜木みなと)は相変わらずのポジションで相変わらずのキャラです(笑)
役柄かもしれません。

技術的にはもう不足は感じません。
しかしこの役は、星組で北翔海莉さんが主演を務めた時のこっちゃん(礼真琴)の役です。
正直、トップ目前の二番手としては少し物足りなさを感じました。
ずんちゃんのことを考えると、もっと違う作品にしてほしかったな…

このままトップになって「地位が人を作る」となってくれるのでしょう。
しかし私は、十二分に時間をかけてトップに就任したキキちゃんの後として、宙組初の生え抜きのトップとして”君臨”してもらうためには二番手としての経験をもう少し積ませてあげたいと思いました。

観客の熱さに驚きました

宙組ファンの歓声・拍手

何より、今回もっともびっくりしたのが観客の熱さです。

拍手や歓声のタイミング、大きさ、キレ、どれも地方公演のものとは思えませんでした。

そう言えば、初日のカーテンコールでキキちゃんが歓声や拍手がまるで初日とは思えないほど息が合っていて大変驚いた、何か打ち合わせをしたのかと思うほどだったと話していましたね。
「あ〜、これのことか」と思いました(笑)

とくにお芝居の『大海賊』の海賊たちの場面での手拍子にびっくり。
この場面でこんなに息ぴったりの手拍子ができるなんて!
キキちゃんが言うように観客みんなで事前に打ち合わせしていたかのようでした。

全員がプロの宝塚ファン、宙組ファンかと思うような観客でした。

宙組のファン、キキちゃん(芹香斗亜)のファンの人たちの思いを痛いほど感じさせられました。

カーテンコールでも熱い観客

カーテンコールは幕が上がってみんなが姿を現すと、拍手だけでなく「フ〜〜〜!!」と歓声が上がってました。
他の公演じゃこんなことないですよね〜

その盛り上がりにキキちゃんも

「お楽しみいただけましたでしょうか〜?」

とクソデカボイスで客席に呼びかけて、またまた大きな歓声が上がるという大盛りあがり。
その後、

「広島はアツい!」

とキキちゃん。
この日の広島は気温も暑かったんですが、客席の熱さのことも言ってたんでしょうね〜
そして

「広島、大好きじゃけ〜ん」

と広島弁で言ったので、またまた大盛りあがり。
最後は

「我々は次の目的地、福岡に向かう!!」

と叫んだエミリオ船長に他のみんなが

「おお〜〜!」

と雄叫びを上げてたのが本当に楽しかったです。
一つ残念だったのは楽しみにしていたご当地出身者紹介がなかったこと。
広島県やその周辺の出身者がいなかったんですね〜

宙組ファンの思いを感じました

宙組がこの一年通常通りの舞台に立つことができなかったことはキキちゃんや宙組生にとって辛いことだったでしょうが、同時にファンにとっても受け入れ難い辛さだったと思います。

宝塚を知らない人たちにとっても衝撃の事件だったでしょう。そして「あー、宝塚ね」「宙組ね」となっているのは致し方ないことと思います。

私はファンとして受け入れることを決めましたが、それでも思うことはあります。

『Le Grand Escalier』を観劇した時もそうでしたが、フィナーレの盛り上がりの中で、ここにいるはずなのにいないAさんが…ということが思い起こされ、自分でもよくわからず涙が出てしまいました。

それでも今回、広島の公演を見ることができたことはとてもよい経験となりました。
ファンも一緒に苦しんだ一年だったと痛切に感じました。

安易に「乗り越える」という言葉を使っていいのかどうかわかりません。
何も無かったことにはできません。

しかし、ファンである以上はAさんのことを忘れずご冥福を祈りつつ、それでも時計の針を進めるしかないのだと思いました。

広島の劇場に参集された宙組ファンの皆さんの時計はようやく進み始めたんだと感じさせられました。

  

読んで頂き、ありがとうございました。

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